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   二人で、腰をぶつけ合うように、激しく抱き合いながら、鳳は、宍戸に窓を見るように言った。

   「宍戸さん、花火も、クライマックスです。どうか、外を見てください。」

   宍戸が快楽でぼやけている頭で、その言葉を何とか理解し、視線を移動させると、その視界には、

   滝のように流れる白い花火の姿が入ってきた。

   俗にナイアガラと呼ばれる花火は、岸にそって、何百キロも続いている。

   その光り輝く滝の流れには、大きな文字が浮かんでいた。



   <愛しています……永遠に>

   <あなただけを……この先、一生、愛し続けます。>


   鳳は、宍戸を強く抱き締めると、耳元で同じ言葉を囁いた。

   宍戸は、切なくて、何だか泣きたい気分になった。

   自分は、男である。

   女性と違って、このまま付き合っても、結婚する事はできないと思う。

   そんな自分でも、この先も、鳳と一緒にいても良いのだろうか?

   「俺も……俺も。ずっと、お前だけだからな。」

   宍戸も、鳳の身体を夢中で抱き締めていた。

   二人は、激しく抱き合うと、快楽の波に飲まれていった。

   辺りは、花火の打ち上げも終わり、人のざわめきも止んでいた。

   夜の静けさが広がってゆく中で、二人の快楽の声だけが、ずっと熱く続いていたのだった。


                               ☆



   乾ききった喉を潤すために、鳳が、使用人へ飲み物を頼んでいるのを、宍戸は、疲れ切った頭で

   聞いていた。胡座を組んだ鳳の膝の上で、宍戸はぼんやりとしていたのだ。

   ほとんど全裸に近いので、衣服を身につけたいのだが、身体に力が入らない。

   「長太郎……恥ずかしいよ。こんな格好……。」

   鳳は、羞恥心で顔を赤らめている宍戸を抱き締めると、こう囁いた。

   「俺が、ずっと抱いてますから。大丈夫ですよ。俺も、宍戸さんの、こんな可愛い姿を

    他人に見せるのは、嫌ですからね。」

   そんな鳳の笑顔を見ながら、宍戸は、もう一つ、こんな言葉を言ったのだ。

   それは、花火を見ている時から、ずっと、不思議に思っていた疑問だった。

   あの最後の花火。アレには、特定の名前は記載されていなかったけれど。

   たぶん、自分の事に違いない。

   鳳が、自分に対して、言った言葉と同じだったからだ。

   まさかと思うが。あの花火は、鳳長太郎が作った花火なのだろうか?

   そんな宍戸の疑問に、鳳は、満面の笑顔で答えたのだった。

   「はい。宍戸さん。アレは、俺が作りました。

   時間が無かったので、大変だったんですよ。

   花火職人さんを百人ばかり雇って、河川敷を連日徹夜工事しましたからね。」

   宍戸は、あまりの事に眩暈を覚えていた。

   勝手に、そんな工事をして大丈夫なのだろうか?

   そして、もう一つ、疑問に思っていた事も聞いてみた。そんな個人的な事を花火大会で

   やっても良いのだろうか?

   「ああ、言ってませんでしたか? 

    この花火大会は<鳳家主宰>のモノですから。

    親戚一同で集まって、毎年、夏の終わりに花火を上げるんです。

    最初に、白い花火が上がりましたけど、アレは、鳳家の家紋を表現したモノで……。」

    宍戸は、そんな解説を聞きつつ、ほとんどの内容が耳に入っていなかった。

    個人主催の花火大会など、今まで生きてきて、聞いた事が無かったからだった。

   「……周りの船は、全て鳳家の持ち物なんです。親戚が乗っています。

    ほら、俺達のすぐ目の前にある、あの屋形船。

    アレには、俺の両親と姉が乗っているんですよ。」

   そう言って、鳳は、50メートル先に浮かんでいる船の人影に手を振った。

   「なっ?! 」

   宍戸の思考回路は、混乱を極めていた。

   (ちょっと待ってくれ……。と、言う事は。)

   (俺達は、長太郎の両親の見ている前で、あんな事や、そんな事を?! )

   あまりの出来事に衝撃を受けた宍戸の全身は、悪寒が来たように震えていた。

   それに、気がつかない鳳は、能天気に話を続けている。

   「いつもは、俺も一緒にあの船に乗るんです。

   でも、今年は、宍戸さんと二人で参加したくて、ちょっと、我が侭を言ってしまいました。

   とにかく、素敵な花火大会で良かったです。 出来れば、来年も宍戸さんと一緒に……。」

   そこまで言った鳳の頭に、宍戸の拳が炸裂した。

   「……お前って、ヤツは! お前って、ヤツは!」

   どうして自分が殴られているのか、鳳は、理解できないのか、驚いた顔をしている。

   「な、何で怒っているんですか? 宍戸さんっ?? 」

   鳳を殴りながら、宍戸は、何と言って、今の自分の心境を相手に伝えて良いのか、

   まるでわからなかった。

   救いようが無いほど、この鳳長太郎は、お坊ちゃまなのだ。

   言葉につまってしまった宍戸は、ただ仕方なく、こう叫ぶだけだった。

   「この、大馬鹿野郎ぉぉぉッ!!! 」



   宍戸に頭を殴られながら、その時、鳳が考えていたのは、全く別の事だった。

   船旅は、やはり素晴らしい。

   時間の経過がゆったりと流れ、愛を確かめ合う恋人同志が過ごすには、うってつけだ。

   出来れば、自分達の新婚旅行には……。

   <豪華客船で世界一周旅行>をしてみたいものである。

   その時、鳳の頭の中では、そんな旅行の日程が着々と計画されていたのだった。

   彼ら二人の愛情は深い。

   その思いも一つだったが、あまりにも違いすぎる境遇が、最大のネックである事に、

   この時の二人は、まだ気がついていなかった。

   

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